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2012.04.16 Monday
 あくまで一次は一次でーみたいに考えていたので、これまで一次作品の二次創作(ややこしいな)は別名義で書いていたのですが、うじうじ悩むのはやめてこっちの名義で書くことにしました。というわけで二次創作アカウントからお引っ越し作品です。

 鉄道擬人化富士×櫻になります。続きからどうぞ。

----------


「先輩! 起きてくださいよ、ねぇ、先輩!」

 櫻の声が聞こえる。

「先輩! 先輩っ!」

 そんなに大きな声出さなくても聞こえてるから大丈夫だって。

 あれ? 櫻、お前泣いてないか?

 なあ。どうした。


誰がお前を泣かせてるんだ


「お久し振りですね」
にっこりと笑って、その男は富士に声をかけた。本当に久し振りに見た顔だ。いや、もう見ることは叶わないはずの顔だったので、富士は純粋に驚いてしまったのだ。
「久し振りじゃのう、センセイ」
富士は彼に応えた。
「終戦直前以来か」
「ええ。しかし驚きました。何故君がここに?」
センセイと呼ばれた彼は富士に訊いた。
そういえばここは何処なのだろう。漠然とした頭で富士は思った。何処かの駅のホームには違いないが、こんな駅は富士の記憶の何処にも見当たらない。
「儂もボケてきたかのぅ。何故も何もここが何処かもわかっとらん」
苦笑しながら、富士は言った。
「私より若いくせに何を言ってるんですか」
センセイは言う。
「記憶が混乱してるようですね。まあ、初めは誰でもそうですから仕方ないですけど」
どうやら自分に起こっているこれは誰にでも起こるものらしい。
「隣、座っても?」
センセイが訊き、富士はそれを了承した。
「そっちは大変なことが起こってるみたいですね」
「大変なこと?」
センセイの言葉の意味が解らない。
 今日もいたって普通の一日のはずだ。相変わらずの日常。特別な何かが起こっているなど、ない。
「戦時中の方が大変だったじゃろ」
「君は、本当に覚えてないみたいですね」
ため息を吐くセンセイに、富士は訝しげな顔をした。
「皆大変みたいですよ。君はいなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫……って」
考えてみるがその大変な事態がどういうものかも判らないため、富士は返事に困った。
「まぁ、儂がおらんでも連中なら大丈夫じゃろ」
事実、今は新幹線なんて便利な連中もいるし、自分以外にも寝台はいる。そう富士は思う。
「はぁ……じゃあ、もう未練とかそういうのはありませんね」
センセイは哀しそうに言った。
「富士君。皆とお別れをする覚悟が、君にはありますか?」
唐突に、彼は何を言うのだろうと富士は思った。
「もう少ししたら、このホームに列車が来ます。君に彼らと別れる覚悟があるなら、乗ってください」
「それはどういう……」
富士がセンセイの真意を正そうとした時だった。

『先輩』

「!」
後輩の声が聞こえた。
「櫻?」
確かに、櫻の声だった。

『先輩ッ!』

 必死になって自分を櫻が呼んでいる。だが、声は確かに聞こえるのに、櫻の姿が見当たらない。
「櫻っ」
儂はここにいるぞ。そう言うが櫻はずっと自分を呼ぶばかりで富士の声が聞こえないようだった。
「櫻っ!」
ベンチから立ち上がって櫻に叫ぶ。
「どうなっとるんだ?」
解らない。次第に櫻が自分を呼ぶ声に嗚咽が混じるのが判って富士は戸惑った。
何故泣くんだ。どうして泣いている。
「君の大事な後輩が呼んでますよ?」
センセイは立ち上がって富士に向き直した。
「これでも君は、彼を残して行けますか?」
「行くって」
そもそも、何処に行くというのだ。自分にそんな気はさらさらないのに、センセイは富士に『行けるか』とばかり問う。
「あれだけ儂を呼んどるんじゃから帰らんと不味いじゃろう」
櫻はなおも自分を呼んでいる。早く、早く帰らなければ。
「そうでしょうね」
センセイは微笑んで富士に歩み寄った。
「え?」
富士は思い出す。何故、彼が歩けるのだろう。そんなはずはないのに。
「君はまだ行けないでしょう? 早く帰りなさい」
推進機を外して、彼はもう進めない身体のはずなのだ。なのに、何故歩いている。
ぎゅっと、センセイは富士を抱きしめた。
「まだ、こっちに来るには早いですよ。待ってる人がいるところに帰りなさい」
そして、富士を離して笑う。
「そうじゃないと、君の可愛い燕にお尻を蹴られて追い返されますよ?」


「先輩!」
一際大きい声で、櫻が呼んだ。重たい瞼をゆっくりと開けると天井が見えて……その右端に櫻の顔が見えた。
「さ、く……ら?」
声を出そうとしても、上手く声が出ない。
項垂れた櫻は泣いているように見えた。
なあ、泣くなよ。なんで泣いているんだ。
富士は腕を動かそうと力を込めるが、やはりこれも上手くいかない。けれど、手を握っていた櫻が身体の動きに気付いて富士の顔を見た。
「先輩……!」
櫻はやっぱり泣いていた。
「よかった……ほんとに……よかった……っ」
櫻は涙をぼろぼろと零しながら言った。涙を拭ってやりたいのに、身体が動かない。
なあ、櫻。お前、まさか俺の所為で泣いているのか?
櫻を泣かせているのは、自分だったのだ。そのことに漸く富士は気がついた。そして、思い出す。
(ああ、そうか)
俺、事故に遭ったんだ。


後に西明石駅列車脱線事故と呼ばれる事故だった。


□■□


「先輩、こんなとこにいたんですか」
少し怒った口調で櫻は富士に言った。
「そう言うな。煙草吸うくらいいいじゃろ?」
「駄目ですよ! まだ万全じゃないくせに何言ってるんですか」
松葉杖片手では説得力がないようで、櫻は富士の手から煙草を取り上げた。
「まったく、何考えてるんですか」
櫻が泣きそうな顔をして、富士は顔を反らした。
「…………」
空が眩しい。
「……富士に会うたよ」
暫くの沈黙の後、富士がそう言った。
「富士って……戦艦のですか?」
櫻の問いに富士は返事を返さなかった。
「元気でしたか?」
櫻だって戦艦富士がとうの昔にこの世から消えたことは知っている。知っているが富士に付き合うことにしたのだろう。反論しなかった。
「推進機を外されて終戦直前はずっと車椅子だったはずなのに自分の足で立って歩いとった」
もしあれが夢でないとすると。自分はあのまま死んでいた可能性が高いのか。そう富士は思った。
「富士にあれこれ言われてる最中にお前の声が聞こえてな」
自分を櫻が呼んでいた。
「必死な声でお前が俺を呼んでて、その声がだんだん涙声になって」
口調がいつものそれじゃなく、本音が出る時のそれになっていた。
そしてはたと気づく。そして富士は櫻に訊いた。
「あの時お前が泣いてたのって、ひょっとせんでも俺の所為か?」
櫻はぐっと堪えるような顔をしていた。
「俺がお前を泣かせたのか」
櫻の目を、富士は見た。答えは、聞かなくても判った。
「すまん」
富士は詫びた。
すると櫻が富士の胸に飛び込んできた。衝撃に耐えきれず、富士は後ろに倒れこんでしまった。
「いっ、つ……」
「あの状況でっ、僕が泣くのが先輩の所為以外にあるワケないじゃないですかっ!」
櫻は富士の胸をどんどんと叩きながら言った。
「どれだけ心配したと思ってるんですかっ。先輩の所為じゃないにしたって、機関士の所為でああなったにしたって……」
ぼろぼろと涙を流して櫻は言う。
「先輩死にかけたじゃないですか!」
声を上げて、櫻は泣いた。
「櫻」
富士は櫻を右腕で抱きしめた。
ああ、やっぱりそうなのか。
「すまん」
富士はもう一度詫びを言った。
「泣くな、櫻」
「うああああああっ」
櫻が泣きやむ様子はなかった。
もしあの時、自分が死んでいたら。櫻はどうしただろうか。
今よりもっと酷く泣いただろうか。それとも涙すら出なかっただろうか。
「櫻」
自然と抱きしめる右腕に力が入った。
「すまん、櫻」
櫻が泣き続ける間、富士は櫻に詫び続けることしか出来なかった。


「落ち着いたか?」
それから暫くして、やっと櫻は泣きやんだ。
「ええ。お陰様で」
その目は泣き腫らして赤くなってしまっている。
「櫻」
富士は言った。
「けど、いつかは本当に死ぬ時が来るんじゃぞ? その時どうする。年功序列で言えば間違いなく儂のが先に死ぬぞ」
可能性は十分にある。すると櫻は富士の胸に額を預けて言った。
「僕より先に死なないでください。先輩」
無茶な願いだと思った。だが櫻は続ける。
「そしたら僕は泣かずに済みますから」
富士が死んだら絶対泣く、そういう宣言に等しかった。
「無茶を言うのぉ」
富士は苦笑する。
「お前、儂を泣かせたいんか」
櫻はそんな富士に言う。
「僕もう十分過ぎるくらい泣きましたから、今度は僕のために先輩が泣いてくださいよ」
困ったことを言う。
「先輩。僕を置いて死なないで」
富士は櫻の無茶な願いを叶えると約束出来なかった。
「櫻」
頭を撫でる。
「俺が死んでも泣くなよ」
きっと櫻は泣くのだろうけど。
「泣くな。櫻」
そう言って櫻に口づけた。長く、そして深く。
「俺はお前の涙に弱いんだ」
その時の富士の言葉は、紛れもない真実だった。
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